タクシーの求人票にある「月収35万円可」「歩率60%」という数字は、仕組みを知らないと比べようがありません。タクシードライバーの給料は、営収(営業収入)×歩率を土台に、A型・B型・AB型という3つの給与形態のどれかで支払われます。この記事では、まず3タイプの違いを表で示し、仮の営収を使った通し計算、「足切り」の意味、歩合制でも守られる保障給のルール、統計上の平均年収まで順に解説します。読み終えたら、求人票の月収例を自分で分解して比べられるようになります。
この記事でわかること:
- タクシーの給与形態3タイプ(A型・B型・AB型)の違い
- 営収からの給料の計算例と「足切り」の意味
- 平均年収の統計の正しい読み方と、求人票で確認する項目
結論:タクシードライバーの給料の仕組みは3タイプ(A型・B型・AB型)
まず結論の表です。タクシー業界の給与形態は、伝統的にA型・B型・AB型の3つに分類されます。
| 形態 | 給料の構成 | 特徴 |
|---|---|---|
| A型 | 固定給+各種手当+賞与 | 安定重視。歩合部分が小さく、営収が伸びても増えにくい |
| B型 | 完全歩合(営収×歩率) | 営収がそのまま反映。高収入も狙えるが変動が大きい |
| AB型 | 固定給+歩合+賞与積立 | AとBの中間。歩合の一部を賞与として積み立てる |
現在の主流はAB型とB型です。A型を純粋な形で採用する会社は少なくなり、多くの会社が「固定部分で最低限を支え、歩合で頑張りを反映する」設計を取っています。どの形態でも共通する土台は、乗客を乗せて得た営収に歩率(50〜60%前後が目安)を掛けて歩合給を計算するという仕組みです。
つまり、求人票を見るときの順番は「形態はどれか→歩率は何%か→足切り(後述)はあるか」の3点です。この3点がわかれば、次章の計算式に当てはめて自分の想定月収を概算できます。
給料計算の土台:営収×歩率のしくみ
歩合給の計算はシンプルです。
- 歩合給 = 営収(税抜) × 歩率
営収とは、乗客を乗せて得た運賃・料金の合計(営業収入)のことです。1日の営収が5万円、月に12回乗務すれば月間営収は60万円になります。歩率は会社ごとに決まっており、50〜60%前後が一つの目安です。同じ月間営収60万円でも、歩率50%なら30万円、60%なら36万円と、歩率の差がそのまま給料の差になります。
ここで大事なのは、歩率の数字だけで会社を選ばないことです。歩率が高く見えても、後述する足切りの水準が高かったり、無線配車の手数料や各種控除の扱いが違ったりすると、手取りは逆転します。歩率は「計算の入り口」であって、結論ではありません。ドライバー全般の給与構造(固定給・歩合・手当の関係)はドライバーの給料のしくみでも整理しているので、あわせて読むと比較の軸が増えます。
営収60万円ならいくらになるか:仮の数字で通し計算
仕組みを数字で確認します。以下はあくまで仮の条件での計算例で、実際の金額・条件は会社ごとに異なります。月間営収60万円(税抜)のドライバーを想定します。
| 形態(仮の条件) | 計算と月収イメージ |
|---|---|
| B型(歩率55%) | 60万円×55%=33万円 |
| AB型(固定13万円+歩率35%) | 13万円+60万円×35%=34万円(別途賞与積立あり) |
B型は計算が一目瞭然です。営収60万円×歩率55%で月収33万円。営収が70万円に伸びれば38.5万円、50万円に落ちれば27.5万円と、営収の増減がダイレクトに反映されます。
AB型は固定給13万円に歩合(60万円×35%=21万円)を足して34万円です。ここに、歩合の一部を積み立てて年2〜3回に分けて支払う「賞与積立」が加わる設計が多く、月々の表面額はB型より低く見えても年収では近づく、という構造になります。AB型を比べるときは月収ではなく年収ベースで見るのが鉄則です。
もう一つ、営収から引かれるものにも注意が必要です。クレジット決済手数料や無線配車の扱い、深夜帯の割増運賃を歩合計算にどう含めるかは会社で差が出ます。計算例はあくまで骨格として使い、実際の控除項目は面接で確認してください。
足切りとは:最低営収ラインと歩率の関係
「足切り」は、タクシー業界の給与計算で使われる俗語で、歩合計算の基準になる最低営収ラインを指します。典型的なパターンは2つあります。
- 基準超過分に歩合が付くタイプ:例えば足切り30万円・歩率60%なら、営収60万円のとき(60万-30万)×60%=18万円が歩合。固定給と組み合わせて支払われる
- 基準未達だと歩率が下がるタイプ:営収が足切りラインを超えれば歩率55%、届かなければ45%で計算する、といった段階設計
つまり足切りは「届かないと解雇される線」ではなく、歩合の計算式が変わる分岐点です。ただし、足切りラインの水準が高すぎる会社では、平均的な営収では歩合がほとんど付かないこともあり得ます。求人票の「歩率60%」だけを見て入社し、足切りの存在を後から知る、というのが典型的なミスマッチです。
面接では「足切り(歩合の基準営収)はいくらか」「新人の平均営収はどれくらいか」をセットで聞いてください。基準額と新人の実態の両方がわかれば、入社後の給料を現実的に見積もれます。求人票全体の危険サインの見分け方はドライバー求人の見極め方も参考にしてください。
歩合でも最低賃金は守られる:保障給のルール
「完全歩合だと、営収がゼロなら給料もゼロ?」という不安に答えます。結論はノーです。労働基準法には、出来高払制で働く労働者に対して、使用者は労働時間に応じた一定額の賃金(保障給)を保障しなければならないという定めがあります。また、雇用されて働く以上、最低賃金を下回る支払いは認められません。
つまり、正社員や契約社員としてタクシー会社に雇用されるなら、「稼げなかった月は給料なし」という契約は成立しません。B型(完全歩合)であっても、労働時間に対する最低限の支払いは法律で担保されています。この点は、雇用ではない業務委託(軽貨物などに多い形態)と決定的に違うところです。
さらに多くの会社は、未経験入社者向けに一定期間の給与保障(例:入社後数か月は月給を保障)を設けています。地理や営業のコツをつかむまでは営収が安定しないため、その期間の生活を支える制度です。保障の金額・期間・適用条件(出勤日数、研修修了など)は会社ごとに違うため、「保障あり」の文字だけで安心せず、条件の中身まで確認してください。